【前回記事を読む】夏休みのプール練習は予想以上に地獄だった。25mプールで何本も泳いでいるうちに、何をしてるか分からなくなり…

〈序章 202×年3月某日(土曜)昼過ぎ〉

〈高校2年生〉

{夏休み}

猛練習に明け暮れた夏が終わった。後学のために、練習に取り入れたアイデアの効果はというと、

(1)アップ・ダウンはバラフライのみ

導入当初は、そもそもバタフライを泳げない者もいたほどで、しばらくの間は、両手を上に上げたまま、水面下に沈んでいく者、逆に、両手が水面より上がらず、両肩だけを回している者、矯正しても矯正しても、両足が平泳ぎの蛙足になってしまう者、など散々だったが、

合宿を終えたあたりから多少は格好がついてきて、筋肉がついたことを実感した者も多かったし、対抗戦などでは、試合前のアップを全員が隊列を組んだ形でバタフライで泳ぐので、他校からは結構な人気であった。

(2)段々と本数を増やすインターバル

個人差はあったが、本数を徐々に延ばすことができた。

その結果、フリーの400m以上のレースでも、いつまで経っても淡々と同じペースで泳ぎ続けることができ、夏最後の十校戦で、春の三校戦の勝敗を次々ひっくり返す快進撃となったが、バックやブレストなどは、200mまでのレースしかなく、その「驚異の持久力」は宝の持ち腐れとなった。

(3)練習の締めは「ラスト5メートル!」

その日のそれぞれの調子にもよるが、「隣のコースは少し遅いので、ゴール直前までリードでき、逆隣のコースは気持ち早いので、少しでも差を縮めていく」ことで全コースの泳者が最後の5m付近でほぼ横一線になるという、傍から見て…本人たちはそれどころではないが…壮観なものだった。

この効果は(1)のような客観的検証はできなかったが、本番で「ラスト5メートル!」との檄が応援席から飛ぶと、パブロフの犬のように反応し、最後の最後の力を振り絞ってしまう者も多かった。

これまでとは違う課題を皆で考えて決めて、少しずつではあっても着実に力を付けていき、最後に訪れる乗り越えるべきハードルを、皆で全力で越えていくことで大躍進した。