「ただいま」
「誰? 宏ちゃん、お帰り~」
高校生に相変わらずの「ちゃんづけ」はないんじゃないかと思いつつ、自室に入り、試験前はとことん勉強するぞと改めて誓いながら、勉強計画を早速壁に貼った。
それを見て改めて、我ながら無駄な時間を極力排除した100点満点に近い完成度で「うん、これなら大丈夫」と思っていたら、お袋が部屋のドアをトントンする。
「お茶を持ってきたわよ」
と、早速遠慮なく入ってくる。
「あら、予定表をまた作ったの? あんたは予定表を作ると、それだけで達成したような気持ちになって満足してしまうタイプなんやから……」
と痛いところを突き、
「作っただけじゃあかんよ、ホントに実行なさい」
と言って出ていった。
ここからレースが始まるとも言うべき大事な1週間前なのに否定から入るとは、なんて親だ!とは思ったが、さすがはお袋、息子のことをよく分かってらっしゃる。お説ごもっともです。
その1週間、時折のTVだらだら見とコミック走り読み、子守歌代わりの深夜放送ちょこっと聴きなどはしたが、それなりの時間を過ごし、試験本番も終わり、答案も返ってきた。
ちなみに試験結果は、主観的には、そこそこ優秀な成績を収めた。客観的には、お袋から「あんたも『いい国作ろう鎌倉幕府』なんて暗記していた中学の時までは賢かったのに……」とつぶやく感じで、しかし、聞こえるように言われた。
赤点ギリギリの教科も複数あったので、お袋のつぶやきに多少は感じ入るものがあったのは事実だが、「部活で培った体力で、受験戦争に最終的に怒涛の勝利を収めるのが、正しい都立高校生の在り方だ」という先輩たちの尊いお言葉を思い出し、丁重に受け流した。
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