「この事件単独では放火だと判断することはできなかった。ところが、4月19日、国分寺、4月25日、あきる野市で全く同様の事件が発生した。
国分寺では藤田洋子さん82歳、一人暮らしの2階建て木造住宅が深夜0時頃に全焼。火災後の調査で2階から多田さんと同じように内部まで炭化した遺体が出てきた。
あきる野では岡本誠さん90歳、こちらも一人暮らしの木造平屋の住宅が深夜0時頃全焼し、中から内部まで炭化した遺体が出てきた。
つまり通常の火災では生じえない焼死体が3体も連続して発見されたということだ。この2件に関してはまだ火災原因調査の最終報告書が届いていないが、火元はやはり遺体があった場所が中心だったということだ。
我々はこの3件は何らかの繋がりがあるのではないかと目をつけ密かに調査していた。すると、3件とも火災発生時刻に周囲の防犯カメラや車のドライブレコーダーに共通の人物が映っているのを確認した」
土屋はスライドで防犯カメラの3つの映像を同時に映した。いずれも黒いパーカーのフードを目深に被った男がきょろきょろと周囲を見回しながら、道を歩いている映像であった。映像が不鮮明で顔は判然としなかったが、パーカーの胸に描かれた白い紙垂(しで)のようなロゴが同じであることから、男が同一人物であることは紛れもなかった。
「だが、映像では放火の証拠は見つけられなかった。我々はこの男が何らかの事情を知っていると考えている。場合によっては放火殺人の可能性もある。このパーカーを着た男を見つけたらすぐに連絡しろ。以上」
捜査員たちは騒めきながらも仕事に戻っていった。小川が鍬下に言った。
「何でアカイヌくらいで特捜なのかと思ったら、また妙な事件かよ。だんだん世の中おかしくなってないか?」
「係長、ひょっとして羽牟さんを殺したのもこいつの仕業じゃないですか?」
「ええ? おまえ、それ本気で言ってんの?」
「羽牟さんの死因も未だによく分かっていません。こいつが何らかの方法で離れた場所にいる人間を加熱し、発火させることができるのなら、羽牟さんの件も説明がつきます」
「まさかまたマイクロ波がどうとか言う気じゃないだろうな」
「そう言いたいところですが、マイクロ波による加熱は内部の水分子を振動させて発生する摩擦熱を利用しているので、理論的に300度程度が限界なんです。人間を茹で上げることは可能ですが、炭化させるのは無理です」
「そんな難しい話はいいよ。それより、あの男が犯人だとして、何で最初に防衛省の官僚を狙って、次は一人暮らしの老人なんだ? それに、火災現場もこの3か所は全然かけ離れているし、最初はマンションなのに、あとの2件は木造住宅だ」
「確かに。最初の火災と後の2つは何か違うのかもしれませんね」
「え、おまえもそう思う?」
「はい」
「いや、おまえと意見が一致するなんて俺も冴えてるな」
頬を掻きながら小川は去って行った。
次回更新は3月12日(木)、21時の予定です。