恐怖による支配

母には僕への愛情が欠けていたのだろうか。

元々、温もりのない世界に生きていたので、家庭になんの未練も感じなかったし、ホームシックも感じなかったのかもしれない。そして、自分の存在に対する安心感が僕に欠けているのは、そのせいだと考えることもできる。

あるいは、母親は子どもに愛情を感じるものだという考えが幻想かもしれない。実際、自分の子どもに愛情を感じられないという母親の話はよく聞く。

母に深刻な問題がなかったとも思わない。カウンセリングの中で記憶を辿っていくと、母や父の異常さもわかってきたからだ。ほかの家庭を知らないと、異常な家の中も異常とは感じられない。

僕は、居心地が悪かったとはいえ、自分の家は特別に異常なところだと思っていなかったし、大学生のときには、デートの相手に「僕の両親は素敵なんだよ」とまで話していた。

23歳でうつ病を発症して、長い治療を受ける中で、初めて、両親が異常だということに気づき始めた。虐待を受けていても(虐待には、想像以上にさまざまなものがある)、それが異常な行為だと理解していなければ、虐待だという認識も「逃げる」という選択肢さえも思い浮かばないのだ。僕は家族の中で孤立していた。

冒頭で話した、家から出ようとしたときと同じ頃、家族の寝室で母に叱られている記憶も残っている。

くどくどと怒られているのだが、時間が経つうちに、母の姿はどんどん僕から離れていき、遠くに見える。なんだか周りの風景もぐらぐらとし始めた。母の声も聞こえない。その口がせわしく動いているのは見えるのだが、記憶の映像は無音のままだ。心理カウンセラーが言うには、解離性障害の症状だそうだ。

 

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