【前回の記事を読む】「すぐに来て下さい。お母さんの容態が…」末期癌の母が通う治療院が摘発された日、病院から緊急の電話が…
サイコ3――奇跡の手
「お母さん!」
麻利衣がベッド柵を掴んで母親の顔を覗き込むと、小百合は苦し気な息の中、うっすらと目を開けて潤んだ瞳で娘を見た。
「麻利衣……」
傍らに立っていた千晶がタブレットの画像を見せながら言った。
「あなたが外出した後、急に息が苦しくなって救急車を呼んでうちに搬送されたの。何度もあなたに電話したんだけどなかなか繋がらなかった。胸部CTで著明な急性間質性肺炎を発症している。おそらく薬剤性肺障害ね。
ステロイドパルスを開始したけど、今のところ全く効果がなくて、低酸素血症が増悪して濃度100%の酸素を吸入しても血液酸素飽和度が90%ぎりぎり。
気管挿管して人工呼吸器に繋げないと命が持たないって何度も説得しているんだけど、『延命治療はしたくない』って拒否しているの。麻利衣、あなたからも説得してちょうだい」
麻利衣は青い顔で母の顔をもう一度覗き込んだ。
「お母さん、生きて。私を一人にしないで」
「麻利衣、まだ私、死にたくない。あなたを一人になんてできない。其田先生を呼んで。其田先生ならこの病気もすぐに良くしてくれるから」
「お母さん……」
麻利衣はベッド柵にすがって泣き崩れた。そしてそのまま床にくずおれると、這うようにして近くに立っていた賽子の足元に近づき、額を床につけて土下座し、涙ながらに懇願した。
「賽子さん、今まであなたの力を馬鹿にして本当に申し訳ありませんでした。これからはあなたのことを信じます。だから、どうか、どうか母を治してあげてください」
賽子は足元に平伏している麻利衣を憐れむような眼で見つめながらこう言った。
「苦しい時の神頼みというわけか。私は完全能力者(パーフェクトサイキック)だ。私ならこの病気も治すことができる。ただし報酬は1億だ」
麻利衣は思わず顔を上げた。
「1億……」
「現代医療では10億かけてもおまえの母親の病気は治らない。1億で命を救ってやるというのだ。安いものだろう」
「……」
その時、千晶が口を挟んだ。
「そんな、麻利衣に1億なんて払えるはずがありません。麻利衣はあなたの助手ですよ。もう少し何とかならないんですか?」
「ではおまえは、今まで彼女に対して行った診療を全てただにするんだな?」
「え?」
「おまえは麻利衣の友人だ。情誼のことを言うのなら、おまえこそこれまでかかった診療費を全てただにして、おまえの給料で肩代わりすべきじゃないのか?」
「それは……それとこれとは話が違います」
「何が違うんだ? おまえはプロの医師として彼女を診た。だからそれ相応の報酬を得るわけだ。私はプロの超能力探偵だ。この病気を治すにはかなりの精神エネルギーを消費する。だから相応の報酬を要求するのは当然だ。
おまえたちは私のことを人でなしと思っているかもしれないが、自分たちの胸に手を当ててみろ。目の前の患者を救うのが使命で、私利私欲を一切顧みないのが理想的な医師だと言うのなら、何故患者から金を取る。
今からおまえたちにできることと言えば、ECMO(体外式膜型人工肺)を回してその間に肺移植をするくらいだろうが、それを全て無償でやってくれる病院がどこにあるんだ。
この世には、貧しいがためにろくな医療を受けられず、幼くして死んでいく子供たちが大勢いる。何故その子たちを無償で治療しないのか。それがこの世の中だ。結局は金がものをいう極めて不公平な世界なのだ。私に金を取るなと言うのなら、まずおまえたちから手本を見せろ」