翌朝、麻利衣、賽子、鍬下の三人は其田治療院の一階のガレージの待合室で順番を待っていた。賽子は黒い太極拳服を身に纏い、腕組みをして瞑目している。
「鍬下さん、ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」
麻利衣が鍬下に謝った。
「かまわないよ。これだけの大事になっているからには僕もほっとけないからね」
しばらくすると、例の背の高い気功服を着た女性が階段を下りてきた。
「次の方どうぞ」
三人は階段を上り、女性に案内され、2階の玄関で靴を脱いだ。そこはすぐに広い板張りの道場のようなスペースに繋がっていた。
「乾坤一擲」と書かれた書が正面の壁に掲げられており、部屋の中央にパイプ椅子が3脚並べられていて、三人はそこに座るよう案内された。
しばらくすると、隣の部屋から白い気功服を着た例の狐顔の男が出てきた。目が細いため、何を考えているのか伺い知れない。其田が麻利衣の正面に立ったので、彼女は頭を下げて言った。
「那花麻利衣と申します。先日は母を治療してくださり、本当にありがとうございました。現代医学からも見放されるような悪性の病気が先生の治療で一瞬にして消え去ったと聞いて、本当に驚きました。
ところで、実は私も先日、左の乳癌を指摘されたんです。病院では手術が必要と言われましたが、私は乳房の形が変わってしまうのが嫌で手術を拒否したんです。何とか先生のお力で、手術を受けずにこの病気を治していただけないでしょうか。お願いします」
「そうですか。あの那花さんの娘さん。お母さんは確かにひどい状態でしたが、もう大丈夫です。私の力を強く信じてくださったからです。あなたも治癒を願うのであれば、私の力を強く信じ、決して疑ってはいけません。ご家族からの紹介ということで、今回の治療は80万におまけしましょう。ところで、こちらの方々は?」
其田は左右の賽子と鍬下を見比べながら訊いた。
「二人は私の友人です。二人とも先生の治療に興味があってぜひ見学したくてついてきたんです」
「そうですか。では治療を始めます。私は宇宙の気を集めるためしばらく精神集中しますので、目を閉じてしばらくそのままお待ちください」
そう言うと、其田は脚を軽く開いて立ち、目を閉じて両手で何かを掻き集めるような動作をゆったりと繰り返し始めた。麻利衣は何故かだんだん眠くなってきてしまった。しばらくすると、先程案内した女性が傍に来て、彼女に声をかけた。