川堤の土手に座って腕で涙を拭っていると、目の前にハンカチが差し出された。見上げると、太陽を背にした鍬下の黒い影が彼女の傍らに立っていた。
「ありがとうございます」
麻利衣はハンカチを手に取ると涙を拭った。鍬下は彼女の隣に座った。
「僕も母親を癌で亡くしたから気持ちは分かるよ」
「私の母はまだ亡くなっていません」
「おっとそうだった。失礼。でもね、僕も母にはもっと長生きしてほしかった。元気なうちにはそんなこと一度も考えたことがなかったのに、命に限りがあると知った途端、どんなことをしても生きていてほしいと思った。でも結局だめだったけどね」
「……」
「君は君がお母さんのためにしてあげたいということを素直にしてあげればいいんじゃないかな。僕はこんな性格で、死ぬ間際まで母に何もしてあげられなかった。それが今でも悔いに残っている」
「私は、あと数年しか生きられないとしても、やっぱり病院で正しい治療をして、少しでも長く母と一緒に暮らしたいんです。それが今の私の思いです」
「そうか。とりあえず二課には相談しておくよ。君はお母さんを何とか説得するんだね」
「はい。すみません。鍬下さんの仕事とは全然関係ないのに」
「かまわないよ。ところで、君のお父さんのことについて聞きたいことがあるんだ」
「父のこと? どうして鍬下さんが父のことを」
次回更新は3月5日(木)、21時の予定です。
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