我が家では、俺がいなくなって、探しているかもしれない。早く帰りたいが、果たしてうまくたどり着けるだろうか。
自信はないが、歩き続けた。夜明けが近くなって、見たことがあるような、ないような、風景が広がっている。
中学校の前で、バス停のベンチに腰を下ろした。始発のバスは、まだ来ないだろう。
何度もあたりを見回した。どうやら、方向・道順は合っているようだ。
進行方向から、一人の女性が歩いてきた。まだ、人通りは少ない。早朝の散歩か。
女性が、私を見て、笑っている。
見覚えのある人だった。そう。それは、我が妻であった。
「おはよう」
妻から、声をかけてきた。
相変わらず、にこにこ笑っている。
俺も、「おはよう」と返そうかと思ったが、やめにした。俺を馬鹿にしたようにも受け取れる笑いであった。
「真夜中の、お散歩は、どうでした?」
俺の目を、のぞき込んでいる。
「気分良かったでしょう」
「良くはない」
ぶすっとした表情で、答えた。
「久しぶりの朝帰りね」
妻の声は、弾んでいた。
「誰とデートしたの」
小賢しい言葉。
「そんな相手はいないし、たとえいたとしても、こんな時間に会うわけがない」
何か腹立たしかった。
「M子さんに会ってきたのでしょう」
思わず、飛び上がりそうになった。
彼女のことは、少し前に、思い出したばかり。長い間、忘れていた。その名が、妻の口から発せられるとは……。
妻は、俺とM子との間にあったことは知らない筈だ。そして、M子と一緒にあの事故で死んだおなかの子が俺の子だということも、知らない筈だ。大きな記事になったあの交通事故のことは、俺との結婚の前のことだし、自分達とは関係のない第三者のこととして受け止めていたと思われるが……。
次回更新は3月6日(金)、21時の予定です。
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