第2章 未来をつくるのは人の決算書
人はどのくらいの価値を生み出すのか
では、人が資産となった場合、具体的にどのくらいの価値を生み出すのでしょうか。決算の際、損益計算書にはその年の売上総利益(粗利益)が記載されます。
これを人数で割ればひとり当たりの稼いだ利益がわかります。企業はいったいこの人件費の何倍の利益を稼いでいるのでしょうか。
労使対立の賃金交渉の材料として労働分配率が使われてきました。労働分配率は、事業活動により生み出された付加価値に対して人件費が占める比率を指します。
人件費÷付加価値=労働分配率(%)、という計算式で割り出されます。業種や時代によって、その指標も大きく変化しますが、おおよそ50%が目安となります。
労働分配率が30%台であれば優良企業と呼ばれ、逆に50%を超えるといわゆる赤字とみなされてしまいます。ただし、労働分配率が低ければ優良であると決めつけることはできません。労働分配率が低い企業は妥当な賃金を支払っていない可能性があるからです。
労働分配率が50%前後になると赤字企業とみなされてしまうのは、おおまかに言いますと、人件費の2倍以上の付加価値を上げなければ企業運営は難しいということを意味します。社員ひとり当たりで考えますと、自分の給料の倍の額を稼ぎ出さなければ赤字に転落してしまいます。経営者は社員ひとり当たりがいくらの利益を上げるべきかをしっかり認識することが大切です。
この単純にして重要なことが、経営側はもちろん、社員ひとりひとりの意識に根づいていないことが多いのです。自分の目標利益、それも企業に貢献できる数字を理解してはじめてしっかりとした仕事ができます。
労働分配率をもとに考えますと2倍の付加価値を目指せばよいのですが、経営者や現場で働く社員にとって付加価値は扱いにくい指標であるともいえます。そもそも付加価値の定義が統一されていません。
『中小企業の経営指標』(中小企業庁)
・製造業の場合
付加価値(加工高)=売上高−(材料費+買入部品費+外注工賃)
・建設業の場合
付加価値(加工高)=完工工事高−(材料・部品費+外注費)
・卸売業・小売業の場合
付加価値(粗利益)=売上高−売上原価
『工業統計』(経済産業省)
付加価値=生産額−原材料使用料等−製品出荷額に含まれる国内消費税等−減価償却費
『主要企業経営分析』『企業規模別経営分析』(日本銀行)
付加価値=経常利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課+減価償却費
『法人企業統計』(財務省)
付加価値=人件費+動産・不動産賃貸料+支払利息・割引料+租税公課+営業純益
このように付加価値の定義は各省庁、各企業によってまちまちです。ここでは労働分配率をもとに考えた場合、人件費の2倍の収益を上げなければ企業は赤字に転落してしまうと理解しておきたいと思います。