ロマンティシズムは、その時々の多種多様な価値観を具現してきたが、それらに共通している傾向は、社会制度や理性よりも個人の感覚や直観の重視である。それは、普遍的真実をつかんで他者に伝える芸術家の感性を尊ぶ神秘主義的な信仰でもある。

しかし一方、そのような芸術家を選ばれた者と考えるエリート主義の立場をとりつつ、他方、天才とは公的な庇護を必要とせず、社会や体制側の価値基準によって理解されるものではないという信念も強かった、と述べる*2ジェラルド・ジョナス(Gerald Jonas)は、概念化する際に無視され、背後に押しのけられた存在に目を向け、世界をもう一度、科学一辺倒では無く、生命力溢れたトータルな存在として見直す努力を傾けるうえで、ダンスの役割は期待できると述べる。

ユング派のエーリッヒ・ノイマンは現代芸術の世界は混沌と原初的なイメージとの間で生きていると述べるが、ダンスも、同様に原形質の力に満たされていると推察される。

イサドラ・ダンカン(1877-1927)

19世紀末バレエの技巧主義に反して生まれたモダンダンスは、イサドラ・ダンカンはじめ、ロイ・フラー、ルース・セント・デニス等によって実施されてきた。

ダンカンの「未来の舞踊」では、精神の働きが身体のあらゆるチャンネルを生気で満たしながら流れ出す表現の根源である心のイメージを投射する遠心力を見出した。

胸の中心に集中することができるようになると、例えば音楽を聞くと、その音楽の光と振動がこの泉に流れ込み、頭ではなく心の鏡に精神的な画像として映し出される。そのエネルギーが動きに変わる。

いわゆる、*3ソーラープレクサス(太陽神経叢)と呼ばれる胸いっぱいの感情が動きにほとばしるという。カリフォルニアのオーシャン・ビーチに住んで、波と戯れながら踊っていた彼女は「私の人生と私の芸術は海から生まれた。私の動き、ダンスについての最初のアイデアはまさに波の動きから生み出された」という。(『My Life』1927)。


*1 マホメット イスラムを説いた預言者。

*2 ジェラルド・ジョナス DANCING(『世界のダンス』)の著者。米国イエール大学を卒業後、ジャーナリストとして映像等の批評を25年務め、ニューヨークタイムズにも寄稿している。

*3 ソーラープレクサス 太陽神経叢、みぞ落ちの裏当たりにある、内臓の機能調整に深くかかわる自律神経の集まり。内臓の働きを調整する。

 

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