一つは自分自身の死だ。彼は手術を受けてもそれが失敗することも予知していた。だからそれが自分の運命と諦めはついていた。だが問題はそれではない。彼は自分の予知能力が自分の死後にも通用することをそこで初めて知った。

そして自分の死後に巨額の遺産をめぐって家族間で骨肉の争いが起き、殺人事件にまで進展してしまうことを知ったのだ。彼は愛する家族を誰も殺させたくなかったし、また人殺しにもなってほしくなかった。

だから島木華怜、ただの凡人であるおまえを呼び寄せ、自分の能力を明かし、自分の代わりに予知能力者を名乗らせたのだ。自身の死を見事的中させれば、皆おまえの予言を信じざるを得なくなる。

そうすれば、その後に起こる殺人をおまえが予言した時に、運命を回避すべく皆が行動し、万が一にでも絶望的な運命を変えられるのではないか。

そう思って最後の願いを託し、彼はこの計画を実行したのだ」

「ちょっと待ってください」

麻利衣が遮るように言った。

「もし小佐々さんがあなたが言うように予知能力者だったとするなら、彼は犯人を知っていたわけですよね。それなら何故、直接犯人に犯罪を思いとどまるよう説得しなかったんですか?」

「もちろん彼は説得した。遠回しにね。自分が予知能力者だと明かしていない以上、本人を殺人犯扱いするのは難しかったからだ。しかしそれくらいのことでは犯人の強い殺意を変えることはできなかった」

「こんな回りくどいことをしなくても、自分が予知能力者だとカミングアウトすればよかったじゃないですか」

「まず誰にも信じてもらえなかっただろう。自分の死を予言しても自殺と勘違いされるし、家族の死を予言すると自分が黒幕と疑われかねない。それに自身の世間体もあるからな。この方法をとるしかなかったのだ」

「だが結局運命は変えられない」

華怜が言った。

「確かにあなたの言うとおり、私はただの無名な役者です。

旦那様に雇われて、予知能力のことを聞かされた時はもちろん信じられませんでした。でも旦那様は私に毎日のように翌日起こる事件を全て的中してみせたんです。それで私は旦那様の能力に心酔してしまったのです。

旦那様は未来は努力次第で変えることができるかもしれないと考えていらっしゃったようですが、私はそうは思いません。旦那様の予言は完璧です。あともう少しでそれが分かるでしょう」

次回更新は2月10日(火)、21時の予定です。

 

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