麻利衣、千晶、賽子の三人は部屋に戻って交代に風呂に入った。最後に入った賽子がガウン姿で濡れた髪をドライヤーで乾かしているのを麻利衣は呆然と眺めていた。視線に気づいた賽子が「何だ」と言うと彼女は顔を赤らめて「いえ、別に」と言って視線を逸らした。
「それにしても今夜の0時なんていきなりよね。でたらめとはいえ、ひとみもショックを受けてたわよ。気にしないでとは言っておいたけど。ほんとに一体どういうつもりなのかしら。0時を過ぎて何もなければ自分がインチキだって証明するようなものなのに」
ガウン姿で壁に背をもたらせてベッドの上に足を投げ出して座っている千晶が言った。
「まさか本当に0時に亡くなるってことはないよね」
麻利衣が不安げに言った。
「えっ、まさか。麻利衣、占いなんて信じないって言ってたくせにあの人の言うことを信じるの?」
「そうじゃないけど、何か嫌な予感がするのよね」
「ええ? ひょっとして麻利衣も予知能力があるんじゃないの?」
「やめてよ。予知能力なんて非科学的なものが存在するわけないじゃない。科学的に考えれば、この宇宙における現象は全て過去、現在、未来の方向へ進んでいって、逆方向には進まない。
どうやったら未来の情報を過去に伝えることができるって言うわけ? タイムマシンでも発明されない限り未来予知なんてSFの世界でしかありえないよ」
その時、賽子の髪を乾かしていたドライヤーの音が止まった。
「いや、未来予知は可能だ」
麻利衣は賽子の方を振り返った。
「確かにノストラダムスをはじめ、今まで予言者と騒がれてきた者たちは全て偽物だ。特に有名なのがタイタニック号の沈没を予言したといわれているモーガン・ロバートソンの『タイタン号の遭難』という小説だ。
確かにこの小説はタイタニック号の沈没の14年前に出版され、巨大な豪華客船が氷山と衝突・沈没し、多数の犠牲者を出すという内容と、船名まで実際の事故と酷似しているが、死者数や航路など詳細な部分では食い違いが多い。
それでもこれを予言書だと騒ぎ立てる者がいるが、予知能力というのは予測とは明らかに異なるものであることを証明しなければいけない。
つまりタイタニック号の沈没を予言するのならば、分や秒に至るまで正確な時刻、沈没の正確な位置、死者数まで正確に予言できていなければ、医者が癌患者に余命3か月と伝えるのと同じでただの予測に過ぎなくなってしまう。
当時のイギリスでは『巨人』を意味するジャイガンティックなどの大型客船が次々に建造されていたので、同じく巨人を意味するタイタンという名の大型客船が建造されるのは簡単に予想できたし、ロバートソンは元船乗りだったので、その当時の船長や船員が安全を無視した無理な運航をしていたことも知っていただろう。つまりこれは予測の範囲に過ぎず、予知とは言えない」
「それなら私も賛成です。つまり今まで予知などした人間はいないということですよね」