【前回の記事を読む】「再手術しなければ命はない」のに、父は心臓の手術を受けないと決めた…その驚きの理由は、「もし手術をしてしまったら…」
サイコ2――死の予言者
「何ですって!」
貴子が金切り声を上げて立ち上がった。
「どういうつもりですか! 私達に一銭も遺産を残さないって。私はあなたの妻であり、この子達は連れ子とはいえ、法的にはれっきとしたあなたの子供です。私達にはあなたの遺産をもらう権利があるはずでしょ!」
「もう遺言書も書いて私の部屋に保管している。どうせ私が死んだら君たちは遺留分を請求するんだろうから遺産の半分を君たちで分ければいいだろう。残りの半分はひとみに相続させる。もう決めたことだ」
「どうしてそんなひどいことを! 私があなたのためにどれだけ尽くしてきたか……」
貴子が泣き言を言った。
「尽くす? 君が私に何を尽くしてきたというのかね。いい顔をしていたのは家政婦をしていた時までだ。
結婚してしばらくすると君は私のことなど目もくれず、毎日贅沢三昧で、高級ブランドを買い漁って浪費の限りを尽くした。直美と剛がうちのグループ企業に就職した際も、会社の幹部に圧力をかけて、随分私に恥を掻かせてくれたじゃないか。
そして、君も君の子供たちもひとみにずっと嫌がらせをしてきたことを私が知らないとでも思っているのかね。それでも君たちに我慢してきたのはひとみが家にいたからだ。だから彼女が家を出て行った時、私も家を出ると決心したんだ。
法律上、遺留分は君たちに渡さなくてはならないが、それ以上を君たちに譲る気持ちはない。それが君たちに伝えたかったことだ」
崇夫は落ち着いた声だが早口で今までの不満を捲し立てた。貴子は目を血走らせ、両の拳を強く握りしめながら崇夫を睨みつけていたが、やにわに椅子に尻を落とすと、腹いせにテーブルを拳でドンと叩いたのでコーヒーカップがソーサーの上でガチャンと鳴った。
広間に険悪な雰囲気が漂う中、北側の廊下に繋がるドアが開き、真っ黒のドレスを着た華怜が悠々と入ってきた。貴子は彼女を鋭く睨みつけた。
「おや、皆さん、どうされました? あまり家族団欒という雰囲気じゃなさそうですが」
「何しに来た」
貴子がつっけんどんに言った。華怜は型通りの笑顔を見せた。
「占い師は占いをしに来たに決まっています。今晩の余興として占いをするように旦那様から頼まれていましたので」
「ああ、そうだ。彼女の予言はほんとに当たるんだ。ぜひ君たちにもそれを体験してもらいたくて私からお願いしたんだ。先生、一つ彼らにもあなたの力を見せてやってくれないか」
崇夫は華怜の姿を見ると急に機嫌がよくなり笑顔を見せた。
「承知しました」
足立がテーブルを広間の中央に持ち出すと、華怜はその上に青紫色のマットを敷いた。貴子と剛を除いた他の者たちはテーブルの周囲に椅子を持ち寄り、興味深そうに彼女の作業を見つめていた。
足立が部屋の灯りを消し、彼女が薄暗い充電式のランプをテーブルの上に置き、トレイの上でホワイトセージの葉を束ねたスマッジを焚いて空間の浄化を始めると、すがすがしい香りが周囲に立ち込めた。彼女はタロットカードをシャッフルし、テーブルの上にスプレッドした。