まさ子はアイスとフルーツを頰張った。
「おいしい!」とは言ったが、あまり味が感じられない。頭の中は、透のこれからのことでいっぱいだ。まさ子は思い切って本題に入った。高橋充の死と、その母親が語ったことについてである。
「どう思う?」
「うーん……」
順子の顔からも、さすがに笑みが消え、しばらく考え込んでしまった。まさ子はその沈黙に耐えられず、話し出した。
「ごめん、同業者がそんなことしてるなんて、考えられないよね」
「いや、その人の気持ちはわかるよ。十分なケアをしてもらっていなければ、あるいは、どうしてそうなったのかの説明がなかったり、納得できなかったりしたら、殺されたも同然と憤るのはわかる。
そう思われないためにも、医療者はしっかりと患者さんやご家族に向き合わなくちゃいけない。だから、何らかの落ち度はあったんだと思う。でも、直接見たわけじゃないし、なんとも、ね」
「そうだよね。私だって、半信半疑だもの」
「看護大学の学生時代、口を酸っぱくして『文学を読め』って言う先生がいてね。森鷗外の『高瀬舟』と、謡曲の『隅田川』」「『高瀬舟』は知ってる。安楽死の話だよね。『隅田川』は知らない。謡曲っていうから、お能?」
「京都で子どもをさらわれた母親が、子どもを探して関東の、武蔵の国の隅田川にたどり着く話なの。京都から東京まで、歩くんだよ。女独りで、気が触れたようになって。それだけ親の愛は深いっていうことを、肝に銘じろって、先生はよく言ってた」
次回更新は1月24日(土)、14時の予定です。
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