抱えている患者さんが多いから、全面的に建て直すのも難しいし。建て増し建て増しで凌ぐとああなっちゃうよね。その、〈老人病棟〉っていうのがどこにあるのか知らないけど、まあ、今時八人部屋は、患者さんにとっては厳しいよね」

「透も、事故の直後に入れられたリカバリー室は、八人部屋だった。ただ狭いというだけじゃなくて、人間扱いされてない感じで……」

「辛かったね。ナースや医者の質は、まあ、やっぱり当たり外れがある。どの職業でもそうだけど、ベテランもいれば新人もいる、努力家で勉強する人もいれば、言われたことしかやらないのもいる。人手不足で忙しすぎたりすると、余裕がなくて患者に優しくできなくなる人も多い。もちろん、人の命を預かっているから、そんな言い訳は通用しないけどね」

「私はね、順ちゃん。感謝もしてるのよ。バイク事故で重度の脳挫傷を負った透が、意識を取り戻して、ちょっとでも立てるようになって、歩けるかっていうところまで来たんだから。リハビリの先生方は本当にとてもよくしてくださるの。透も明るくなったし、私も希望が持てるようになったの」

「よかったね、本当によかった。ずいぶん時間経ったけど。……一年? もうすぐ一年半? 頑張った。透くんも、まーちゃんも」

「……あとは自呼吸さえできれば、家に帰れるって言われているのよ」

「呼吸管理はやっぱり自宅では難しいものね。カニューレを入れた状態で一年以上か……」

「スピーチカニューレっていうの? 私、あれに替えたらどんどん喋れるようになるんだと思ってたから、すごくガッカリしちゃって……」

まさ子は口をついて出てきた自分の言葉に驚いた。「ガッカリ」などという言葉は、絶対に言ってはならないと思っていたからだ。

「気持ち、わかるよ。新しいことを始めれば、きっと変化があると思うものね。だけど、呼吸管理には慎重になるのは仕方ない。お医者さんも絶対安全を心掛けているから、そこはわかってあげてね。ほら、早く食べなよ。アイス溶けちゃうよ!」