健二は「また来ます」と言って帰っていった。健二の肉体には、明るい未来が見える。それが眩しい。うらやましい。恨めしくさえ思うまさ子であった。
翌日曜日、高校時代の同級生の水口浩史が、制服姿の女性とともに見舞いにやってきた。
「美術部で〜水口です。彼女は一つ後輩で、やはり美術部の……」
「山崎奈穂子です」
肩まで黒髪を伸ばしたその少女は、小声で挨拶すると深くお辞儀をした。
二人が持ってきた花を花瓶に活けて病室に戻ると、二人は透のベッドの前で茫然と立ち尽くしている。まさ子は、敢えて明るく声をかけた。
「お花、ありがとう」
振り向きざまに見えた奈穂子の顔には涙が光っていた。
「よく来てくださったわ。透も喜んでいると思います。二人とも、お顔はなんとなく。夏の写生合宿のだったか、透に写真を見せてもらったことがあるの。たしか、水口さんは、現役で大学に合格されたのよね」
「僕は、最初から美大を諦めていたんで、普通の大学受験をして普通に合格したんです。透は才能があったから美大を目指して。美大受験で浪人は普通ですよ。でも、法学部に入って弁護士になりたいっていう夢もあって……」
「え? そうなの?」
初耳だった。
次回更新は1月12日(月)、14時の予定です。
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