「軍歌は歌いません」
「まあ、軍歌を歌わない。この大変な時に、みんなの戦意を高めようともせず、子供じみた童謡だなんて。あなたたちには日本人の魂があるのかしら」
「すみません……。それで、入場券を置いてもらうわけにはいきませんでしょうか?」
「学校の行き方に合わないものを置くわけにはいきませんね」
朋は今日も、一言も話すことができなかった。
樹幹で七十枚売れなかったことは大きな打撃だった。
「樹幹はなんだか今までと違う学校になったようだったわ」と落胆を込めてシズちゃんがこぼした。
「仕方がないわよ、今はどこの学校も時局に合わせるのに一生懸命だから」とヤッチンがシズちゃんを慰めた。
「でも、合唱が非国民みたいな言われ方はないと思うわ」
「勇ましくなければならない、が今の風潮だもの」
「でも、樹幹に七十枚売れなかったことは大きいわ、どうしようか」
シズちゃんが顔を曇らせると、ヤッチンは、「みんなで分けるしかないわね」と事も無げに言い、結局、売れなかった七十枚は一年生のみんなに配られた。
朋は入場券を市女時代の旧友や後輩に売り歩いたが、二十枚から三十枚に増えた券を売りさばくのに何日も街を歩き回らなければならなかった。
こんな風に合唱部にはまり込んでいる朋に母は、「何のために専攻科へ入ったの。少しは勉強にも身を入れてよ」と小言を言い、口をとがらせながら、「高い月謝を払っているんだから」と言いかけて、言葉を呑み込んだ。
父は何も言わなかったが、娘が学校で何をやっているのか、よく知らないようだった。