【前回の記事を読む】小声で練習していると父に「変な歌だ」と言われた。父には分かるわけがないと放っておいたが、その日以来…
一年生
一年生は女学校分も担当しなければならない。毎年頼んでいる学校だから「愛想よく今年もお願いします、と置いてくればいいのよ」とサエさんは他人(ひと)ごとのように言った。朋はシズちゃんと一緒に純心(じゅんしん)高等女学校と樹幹(じゅかん)女子学園に行くことになった。
純心は二人とも初めてなので、校門の前から緊張し、通された音楽室でこわごわ顧問の先生が来るのを待った。現れた顧問は、宮本武蔵(みやもとむさし)の画像そっくりの風貌で、指揮棒より木刀のほうが似合いそうだった。彼は厳めしい顔のまま席に座り「田所(たどころ)です」と名乗り「ご用件は?」と切り出した。
気圧されながらシズちゃんが用件を伝えると、
「そうですか、県女は今年も演奏会をやりますか」
「はい」
「この時世にたいへん苦労なことですね」
「はい」
「それで、今年も例年通り七十枚ですか?」
「はい、そう願いたいのですが」
「承知しました、引き受けましょう」
「ありがとうございます」
「本校は十一月に定期演奏会を予定しています。その際はよろしくお願いしたい、と佐々木先生にお伝え願いたい」
「はい、承知いたしました」