彼女は主に認知症の人、そして特に心身の弱った人の介助介護を担当しているようだ。
彼女は入居者に語りかける時必ずその手を握って顔をのぞきこむようにしている。入居者の中にはその手を取って握り返している人もいた。(認知症の人でも自分にやさしい人はわかるのだということを私は学んだ。)
しかも常に四方に気を配り、声かけをしたり介助をしている。その行動は決して数をこなしているのではない。
忙しい中でも彼女の思いやりを見るので、私は彼女を「千手観音さま」と呼んでいる。
Aさんは危うい足取りで廊下を徘徊していることが多い。
スタッフはそれを見ると「危ないから座りましょう」と言ってティールームの椅子に座らせる。私もAさんには同じことをしていた。(Aさんは転倒して顔面にいくつものアザをつくったこともあった。)
ところが新しくこのホームに来たスタッフがAさんを見つけた時のことである。
「Aさん、どこに行きたいの?」Aさんはわずか下の方を見た。
「ダイニング?」(徘徊する人はダイニングに行くことが多い。やはり日に三回行くダイニングは「自分の行くところ」と思っているのかもしれない。)
「でもね、今はダイニングには誰もいませんよ。それに電気も消えているしね、それでは三階に行ってみましょうか。三階のティールームは明るいしね」と言ってAさんを連れてエレベーターに乗った。
「安心、安全」を優先して座らせることばかりを考えていたことを気付かされたのだ。もちろんスタッフたちはいつも忙しいので一人の入居者に連れ添ってばかりはいられないことが多い。
後に彼から「徘徊する人も何か目的をもっているのでそれを聞いてあげることが大事だと思っているんです」と聞いた。
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