彼がM子さんの飲み物の介助をしていた。
左手はずっとM子さんの肩を抱き、右手でカップを口に運んでいた。孫が大好きなおばあちゃんに飲ませているような場面だった。(彼は祖父母にかわいがられて育ったと語ったことがあった。)
ある時は最近とみに食欲の落ちている入居者(現役時代は内科の医師だったという)に多分総合栄養飲料だろうもののカップを口に運んでいた。
しかし飲むという様子は見られない。
彼はちょっと首をかしげ「ねぇ、先生だって昔、患者さんにもう少し食べるようにしましょうって言ってたでしょ」
「たまにはね」
「そう、僕もたまに今言ってるんですよ」。
入居者が苦笑したかどうかは見えなかった。でも多分、私は期待を込めて、ほんの一口は飲んだのではないかと思った。
その飲み残しのカップをシンクに置く時、彼が「ダメだった」と低くつぶやくのを聞いた。その小さなため息は今でも私の心に聞こえてくる。
またある時ある新人スタッフがNさんにしたほっこりする光景を彼に伝えると彼はこう言った。
「彼(スタッフ)のやさしさがNさんの心に伝わったんでしょうね」