「ずっと母は父の株式投資に反対でした。金融機関は振り込め詐欺の予防に必死なのに、80歳を過ぎた私の父にリスクのあるNISAや株を勧めるのはやめてください」
興奮している私とは裏腹に、担当の証券マンは冷静でした。相槌を打ちながら、とても丁寧かつ紳士的に、私の拙(つたな)い話を黙って聞いてくれたのです。
「私の家族の場合は、父が長年の株式投資で出した損失を、たとえ僅(わず)かでも取り戻そうと、証券会社にしがみついているんです。80歳を過ぎた高齢者が、我が身の爪に火を灯すようにして貯めてきた虎の子を、泣く思いで今度こそはと金融商品に託す思いをおわかりいただけませんか?」
ほとんど一方的にまくし立てた感じがありましたが、証券マンはひと通り私の話を聞いてからおもむろに口を開きました。
「よく話してくださいましたね。最近は高齢になったお父さんが、家族に内緒で金融商品を購入して、家族が誰も知らないままにお亡くなりになるケースも多々ありますし、現代は血縁関係の中で、この手のトラブルが増えているんですよ」
そして、「これからはあなたのお父さんの認知度にも注意を払い、新たな証券取引を、特に高額な取引をする場合は、あなたに必ず報告します」と約束をしてくれたのです。
ある程度の年齢になったら、本人は認めたくないでしょうが、どうしても物忘れがひどくなってしまいますし、冷静な判断ができなくなってしまいます。
そうなったと少しでも感じたら家にどれくらいお金があるのか、金融商品をどれくらい所有しているのか、家族にオープンにしておき、家族も把握するようにした方がよいでしょう。
突然親が倒れて、入院費もなく、実家の金銭管理がどうなっているのかわからないという話を、最近よく耳にします。
実際に私も母の時、本人の預金がいくらあるのかわからない、印鑑がどこにあるのか、そしてどの印鑑を使っているのかわからないなど、大変に困りました。
そしてできれば、財産分与なども含めて、どのように最期を迎えたいのか、当人の意識はっきりしているうちに、ご家族で話し合っておくのが望ましいと考えます。
老いを受け入れ、他人に身を任すことが大切になります。
次回更新は1月7日(水)、18時の予定です。
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