七月の第一日曜日。ナンデモ研究会が波奈の部屋で開かれた。もちろん話題は六月の定例会のできごとである。

姿こそ見ることはできなかったが、懐(なつ)かしい青山先生に再会できたのだ。青山先生から告げられたことは、どれも信じられない内容であったが、異世界にまぎれこんだことは、四人の実感であった。四人そろって真っ昼間、同じ夢を見たとは思えなかった。

波奈は、あの日から今日まで、青山先生の話と五月のいなかでのできごとを結びつけて考えをめぐらしていた。近づいている「時」とは、戦いの「時」にちがいないと。

波奈は三人にこのことを話した。

「五月の連休のあとにね、新潟のおじいちゃんの家に山菜とりに行ったの。気になるできごとと、ある予感があったのよ」

波奈は谷底に落ちそうになったときのことや、鏡ヶ池(かがみがいけ)の水面から立ちのぼっていたエネルギーと八海山 (はっかいさん)の峰々 (みねみね)から放たれていたエネルギーについて語り、そのとき、ある「時」が近づいていると感じたことなどを話した。

「その『時』とは、戦いの『時』じゃないかと思うの」悟が驚(おどろ)きと困り果てたような表情をうかべた。

「えー! 戦いの『時』が近づいているって? オレたち何にも知らないぜ」研一もうなずいた。

「たしかに」

波奈は二人のとまどいを理解し、うつむいてしまった。

文子がきっぱりと言った。

「青山先生の言葉を信じるしかないわ。考えながら動き、動きながら考えましょう」

波奈の心に、ふと、自由研究の端発(ほったん)になった浦佐(うらさ)駅で見たポスターがうかんだ。それとともに、そのとなりに貼(は)られた地図も思い出した。

地図は海山八(はっかいさん)の々峰(みねみね)とその名前だった。

波奈は顔を上げた。

「さっきのエネルギーの話につけ加えるわ。海山八(はっかいさん)の峰(みね)の一つは『剣ヶ峰(けんがみね)』なの、それから同じ越後山脈(えちごさんみゃく)の北の谷間に、さっき話した『鏡ヶ池(かがみがいけ)』っていう、青緑色のきれいな池があるわけ。それからヌナカワヒメとヒスイ。どう?」

研一が興味深そうにうなずいた。

「ふーん。剣(つるぎ)と鏡ね」

悟が研一のあとを続けた。

「そうか。それに糸魚川(いといがわ)のヒスイ。つまりマガタマ」「おもしろそうね」文子が言った。

悟が顔を上げた。

「青山先生が教えてくれたよな。ナンデモ研究会の四人の勇士って。勇士って戦うんだろう? つまり武器が必要だよな」文子が口をはさんだ。

 

👉『ヒスイ継承』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】男たちの群れの中、無抵抗に、人形のように揺られる少女の脚を見ていた。あの日救えなかった彼女と妹を同一視するように…

【注目記事】やはり妻はシた側だった?…死に際に発した言葉は素性の知れない「テンチョウ」