【前回の記事を読む】吐き気と眠気で保健室へ通うようになった彼女…ある日彼女の両親が家まで来て、僕を見るなり怒りをぶつけてきた。その理由は…

第一章

「お前、なんのことかわかっているのか?」

それまで黙っていた父が、背後から聞いたこともない低い声で言った。

「えっと……」

戸惑う僕の心臓は、次に発せられた父の言葉に大きく飛び跳ねた。

「緑川遥香さん、妊娠しているそうだよ」

……え? 妊娠? 頭の整理が追いつかない。父の言葉がずっとぐるぐると、僕の脳に入るか入らないかギリギリのところで回っている。どうして? 僕たちがその行為に至った日のことを思い返す。たしかに事前の処置は怠らなかったはずだ。それなのに、いったいなぜ? なにがあったんだ……。

「まず、謝ろう」

横に立った父は、膝をついて腰を下ろした。そして両手を床につき、立っている遥香と遥香の両親を見上げた。

「うちの息子が本当に、本当に、ご迷惑をおかけしまして大変申し訳ございませんでした」

父はそのまま頭を下げた。土下座だ。どうしてそんなことを? わからない。

「父さん―」

「息子さんは、頭を下げないんですか?」

はっとし、顔を上げると、遥香の父親が鋭い視線を向けていた。膝が震える。なにか強大な敵を前にしたときのような、絶対に勝てないと脳が悟っているような感覚に襲われた。遥香の父親はどう見ても、僕と同じくらいの背丈しかないのに、とてつもなく大きな存在に見えた。

「お前も早く!」

立ち上がった父に頭を抑えられ、床に伏せられる。

「本当に申し訳ございませんでした!」

「私からも息子が多大なご迷惑をおかけしまして、申し訳ございませんでした」

父と母が頭を下げるのを見て、僕は自身の中に生まれたわずかな疑念に従い、抵抗するなんてことはできなかった。

「申し訳……ございませんでした」