日頃の他人への明るい接し方と役員に対する遠慮のない態度はいずれも彼の生き方と信念を表すものであるらしく、彼の頑固さがW社の将来に悪影響を及ぼすことを懸念しながらも、私はその一貫性をある程度は認めたいと思っていた。
しかしP氏の転落をきっかけとして、私はQ氏の信念に疑問を覚えるようになった。
以前から二人は気が合うらしくよく話していたが、P氏が地位を失うとQ氏は自分の部屋で彼に居場所を与え、二人の関係はますます強くなった。
その頃のP氏は自身の正当性を訴え、完全に妄想としか思えないような中傷までするようになっており、彼の言葉ばかりを聞いていては相当な誤解が生じると思った私は、Q氏に彼の発言を真に受けないほうがよいとそれとなく伝えようとした。
ところがQ氏は私の言葉に対してはまったく聞く耳を持たなかった。親しいP氏を裏切れないために会話を拒んでいるのかと最初は思ったが、彼自身の思い込みの世界を守るために私の言葉を頭から拒絶しているようでもあり、それでも私がP氏について述べようとすると、彼は妙な笑顔で私に暴言を吐き始めた。
それ以来Q氏と話す機会はほとんどなくなり、やがて私たちは親会社の敷地に移されることになった。そして一緒に移ったメンバーの一人であるIさんから、以前にW社の部屋でQ氏に話しかけられたときに交わした会話の内容を私は聞かされた。
Pさんはなぜ外されたのかとQ氏に尋ねられた彼女は、思いつく理由としてAさんの件について述べた。P氏が職を解かれる前の月にX社に入った彼女は初年度の人の苦労話も上の複雑な人間関係も知らなかったが、それでもAさんの件は概略を聞いており、とりあえずそれを口にしただけだった。
するとQ氏は「証拠があるのか」と言い、P氏を外すための陰謀だったのではないかと疑ったということだった。
Q氏の見当はずれな疑念について知った私は、認識のギャップの大きさをどう扱えばよいのか困惑した。部下にデートの申し込みを繰り返す行為が発覚したときに一般にどの程度のペナルティが与えられるのか知らないが、
当時の私が重大視していたのはP氏の本職における力不足、責任感の欠如と分別を欠いた行動、そして彼とX社を好まないT氏や親会社の要人たちの意向であり、いずれもAさんの件より解決が難しく、単独でも彼を罷免する理由になり得るものだった。
拍子抜けしてしまうほどナイーブに感じられる陰謀のシナリオをQ氏が想像してしまうのは、おそらく彼にも複数の事情があるからだった。まず彼はP氏の表面しか見ておらず、彼と同様にいつもは笑顔が多く善人に見えるP氏が少しでも批判されると怒りやすく制御が利かなくなる人だということを知らなかった。
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