【前回の記事を読む】その瞬間、事件は起きた…強烈な磁場を発生させるMRIの運搬中、運転手が遠回り。ぎりぎり通れる住宅街の細道へ入ってしまい…
サイコ1――念力殺人
「まあいいでしょう。明日、作業員の二人を取り調べれば誰が彼らに指示したのかはっきりします。本来ならこんなこと内密にしておくことですが、逮捕される前に自首された方が罪が軽くなる可能性があるので前もってお話ししました。今晩よく考えてください。それではどうぞ。お帰りいただいて結構です」
邦史郎は憤懣やるかたない様子だったが不安げな千晶と沙織を見て、
「大丈夫だ。俺たちは何も悪いことはしていない。帰るぞ」
と言って、家族とともに家を出て行った。
彼らを心配そうに見送った後、麻利衣が賽子に言った。
「残念でしたね。これが超能力殺人じゃなくて。これで私、あなたの助手にならなくてもよさそうですね」
麻利衣は賽子がすっかりしょげかえっているはずと予想していたが、彼女は至って冷静だった。
「いや、おまえは必ず私の助手になる」
賽子の不気味な笑みを見て麻利衣は背筋に悪寒が走った。
翌朝、麻利衣は押し入れから取り出した12冊の古い茶色のノートをテーブルの隅に積み重ね、一冊ずつページをめくっていた。
しかしそこに鉛筆で書かれている文字の中で判読できるのは数字と日付くらいのもので、他はアルファベットが使用されているものの、その並びはスマホで翻訳させてもどの言語でも解読できない滅茶苦茶なものだった。
3冊目のノートをめくっていた時ふと指が止まり、そこに書かれている文字を見て彼女は息が止まりそうになった。
ID:ψ983 河原賽子――gaezaws grjwkfw.
「河原賽子……やっぱり……」
彼女は急いで着替えると部屋を飛び出し、電車とバスで賽子のマンションに向かった。例の如くチャイムを押すと返事もなく事務所のドアのロックが外れ、彼女は玄関から中へ上がり込んだ。
賽子はこちらに背を向けてソファで飲み物を飲んでくつろいでいた。テーブルの上のドクトルが金色の瞳でこちらを睨んでいた。
「言っただろ。おまえは私の助手になるって」
賽子は振り返りもせず、陶製のカップをテーブルに置きもせず言った。
「違います。今日はあなたの助手になるためにここに来たんじゃありません。あなたに訊きたいことがあって来ました」
「何だい?」
「あなた……」
その時玄関のチャイムで麻利衣の質問は遮られた。振り返るとドアを開けてズカズカと上がり込んできたのは鍬下だった。