【前回の記事を読む】「まさか自分が殺人に加担していたとは」…警察の誘導で運搬ルートを変更し、被害者宅の前で“ある指示”に従っただけだった…
サイコ1――念力殺人
「羽牟さんは以前、静岡県警に勤めていた。その時結婚して一人娘を授かった。だがその後離婚して娘さんは奥さんが引き取った。その後羽牟さんは今の職場に異動になったので娘さんとも長い間離れ離れになっていた。
今から10年前、突然その娘さんが自殺してしまった。当時21歳だった。自殺の原因は彼女の携帯を見ればすぐに分かった。彼女は悪質かつ執拗なストーカー被害に苦しんでいた。
そしてそのストーカーが他ならぬ林良祐だった。林のストーカー行為が起訴されることはなかった。その時の羽牟さんの思いは僕には分からない。
この10年間、羽牟さんはそんな悲しい過去があったなどとは思えぬほど周囲に明るく振舞っていたようだ。つらい過去を忘れ去ろうと無理していたのかもしれない。
だが、邦史郎氏から林のことを相談された時、忘れようとしていた憎悪と復讐の炎が彼の中に甦った。自分の娘を死に追いやった人間が今ものうのうと新たなターゲットを追い詰めようとしているのが彼にはどうしても赦せなかった。
悪質なストーカーは警察が何度警告しても、たとえ逮捕されても刑期を終えれば再び狙った獲物に執着し復讐しようとする。
羽牟さんはそれを終わらせるために林の殺害を決意したんだ」
「そんな……」
「羽牟さん、泣きながら言ってたよ。亡くなる直前に娘さんから突然電話があったそうだ。何か悩んでいる様子だったから、どうしたのか訊いたそうだ。そしたら『富士山って次いつ噴火するのかな?』って話題を変えてしまったそうだ。
あの時きっと林のことを相談したくて電話したに違いないのに、もっと本音を聞き出していれば彼女は死なずに済んだかもしれないってね」
麻利衣の顔が急に強張った。
「その娘さんのお名前って……」
「ああ」
鍬下は手帳を取り出した。
「石川愛さん。それが?」