第一章 ある教授の死

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空中に浮いているあいだ、あ、大変なことになった、と不思議に冷静な心で思った。

しかしそれは束の間のことで、次の瞬間に は、ガツンッという衝撃と同時に、全身を激痛が襲い、やがてふっと意識が薄れていった。

ふと気づくと、高槻は暗く重苦しい夢の中をさまよっていた。だがいつも見る夢とはなにかが違うような気がする。まわりを見ますと、そこは狭くて暗い部屋の中だった。

ぼんやりとした視界に、簡易ベッドのような小さな狭い台が映っている。その上には一人の男が横たわっていた。どこかで見たような男だと思って目を凝(こ)らしているうちに、それは自分の姿だと気づいた。もしそうなら“彼を”見ている“おれは” 、いったいなんなんだ?

そう考えた瞬間、その男の身体の中へ、“高槻の魂は”すぅーっと帰っていった。

すると突然、これから会う予定の相手― 大鳥沙也香(おおとりさやか)の顔が目の前に浮かんだ。彼女は、なにかを語りかけてくる。しかし高槻には彼女の声が聞こえない。彼は焦った。焦りながら、なんどもなんども彼女へ語りかけた。

「聖徳太子を、聖徳太子のことを頼む……」

そのとき、彼のそばに座っていた男がなにかいった。

「あっ、高槻さんの意識が戻りましたよ。高槻さん、高槻さん! わかりますか!」

だが高槻には男がなにをいっているのかわからない。彼は必死で訴え続けた。

「聖徳太子を……ノートを、彼女に渡して…… 頼む……」

「なんですか。ノートですか? 高槻さん、わかりますか! 高槻さん!」

男はなにか叫んでいるようだが、なにをいっているのかよくわからない。

「ノートを……ノートを……頼む……」

必死でそう叫んでいるうちに、ふぅーっと意識が薄れ、高槻は再び深い闇の中へと引きずり込まれてしまった。