大輝は学科でも人気者で、男女ともに好かれていた。彼の笑顔がたまらなく好きだった。
そして付き合い始めておよそ3ヶ月。くるみは彼に家に呼ばれた。最初は行くのをためらった。おそらく男女の仲になりたいという大輝からの意思表示だと思ったからだ。
世間では相手の家に行くのにセックスに応じないのは失礼だという言論がまかり通る。ただ一緒に過ごしたいから、という理由だけでは家に行くという行為には値しないのだ。
だからくるみは、ものすごく考え抜いたあと、「この人ならば私を受け入れてくれるだろう」と思った。そして家に行くことを決めた。
今思えば、なぜ大輝をそこまで信用したのかはわからない。信用した、というよりは、好きだから信用したかった、信用するに値する相手だと思い込みたかったというのもあるのかもしれない。それは完全に、恋は盲目という言葉を証明することでもあった。
大輝の部屋に行き、2人で鍋を作った。あれは寒い冬の夜だった。食事を終えて映画を見たあと、寝ようかという話になってベッドに入った。
「くるみ……」
ベッドに入ると、大輝の手が身体に伸びた。唇が重なり、その手が上着の裾の下から入り込む。
あっ、と思った瞬間にくるみは、大輝の動きを制した。
「待って、大輝。話があるの」
「ん? 何?」
昂ぶったところを制されて、ややもどかしいようだった。深呼吸をしてから、間近にある大輝の目を見る。
「あのね、その前に話したいことがある」
「何?」
「……私、実は左側の胸がないの。病気で」
「は……?」
その瞬間大輝の中で燃えていた炎が、一瞬で消えたのがくるみにもわかった。
次回更新は1月1日(木)、11時の予定です。