「それはもうさ、くるみのこと気になってくれてるんじゃない? よかったじゃん」

「そう……だけど……」

「何か気になることでもあるの?」

理子に問われて、思い直す。自分にも、理子にずっと隠していたことがある。そして今、それが笹川との関係を進めるにあたって、くるみの気がかりになっていることもまた事実だった。

(理子なら、大丈夫……)

「実はね……私も理子に言ってなかったことがあったんだ」

「言ってなかったこと?」

「そう。実はね、私左の胸がないの」

そこから、くるみは中学時代の手術の話、そして大学のときに初めて付き合った人のことをぽつりぽつりと話し始めた。

 

──中学の時に手術を何度か繰り返し、くるみの女性としてのアイデンティティは左胸とともにほとんど切除された。

中高の思春期にあたる男子は、「おっぱいが大きい子がいい」とか「あいつ、胸でかくね?」と話題にする。それを聞くたびに、自分の女性らしさを否定されている気になった。

気になる人ができても、すぐに自分の気持ちを押さえつけた。「好きになったって意味がない」と自分に言い聞かせた。たとえ好きになって両思いになったとしても、その延長線上でくるみでは物足りないと、自分にはない女性らしさを求めて男性が離れていく気がした。

彼氏の1人もできず、男性から一定の距離をおいて過ごした思春期を終え、大学進学のためにくるみは上京する。

そこで初めて、「この人なら信じてみたい」と思える相手と出会った。相手は大内大輝と言い、違う学科だったが、同じ授業を履修することが多く、向こうから声をかけてくれたのが出会いのきっかけだった。