「あなたは千晶さんを幼い頃から溺愛し、悪い虫がつかないように常に監視してきた。それなのにこんな悪質なストーカーに彼女が苛まれていたことに気づかぬはずがない。

千晶さんは家に帰ってくると疲れてそのままソファで眠り込んでしまう癖があった。その隙に顔認証で彼女の携帯を確認すれば林のことなど簡単に把握できたはずだ。違いますか?」

「パパ、ほんとなの?」

不安げに訊ねる千晶に返す言葉もなく邦史郎は顔を背けた。

「どうしてそのことを! 私、邦史郎さんの溺愛のこととか、千晶がいつもソファで寝込んでしまうとか、あなたに教えた覚えはありません」

麻利衣が驚いて言った。

「テレパシーだ。私は近くにいる人間なら容易に思考や感情を読み取ることができる。だから私の前で嘘をつくことは無意味だ」

麻利衣ははっとして、自分の体をあちこち手探り始めた。右手が背中に及んだ時、スーツの襟の裏側に何か硬い物を触れ引き剥がしてみると、それは黒い円形のプラスチック片だった。彼女はそれを賽子に突きつけて言った。

「昨日、私が吐いていた時に服の襟に盗聴器を仕込んだんですね。これがあなたのテレパシーの正体です」

賽子は横目でそれをちらと見て言った。

「それは盗聴器などではない。遠くに離れていてもおまえの脳内情報を増幅して私に送るための装置だ」

「そんなでまかせ通用するもんですか。やっぱりあなたはインチキ超能力者です」

賽子は無言で向き直り、切れ長の目で麻利衣をじっと睨みつけ、麻利衣も負けじと対峙した。

「ちょっとちょっと、君達のいがみ合いを見せられるために僕たち呼ばれたんじゃないんだからさ。河原さん、犯人を知っているって言うんだろ。一体それは誰なんだい?」

羽牟が二人を引き離しながら言った。

「よかろう。教えてやろう」

全員の視線が賽子に集中した。

「私は超能力(フォルス)によって犯人を知っている。ならばそれを警察に伝えればいいだけだと思うだろうが、それではただの超能力者(サイキック)だ。

超能力探偵を名乗る以上、探偵としての責務も負わねばならない。犯人の目途がついた暁には容疑者全員を呼び出し、その中から犯人を突きとめるのが探偵の流儀というものだ。だから今晩皆さんにお集まりいただいたわけだ」

「ちょっと待って!」

千晶が叫んだ。

「私たちの中に良祐を殺した犯人がいるって言うの?」

「いかにも」

人々はお互いの顔を不安げに見合わせた。

「でもあなたも言ってましたよね。この家の玄関の防犯カメラには誰も映っていなかった。つまり超能力でもない限り彼を殺すことは不可能だって。私たちは超能力者じゃありません。私たちの誰かが良祐を殺すなんて不可能です」

次回更新は1月1日(木)、21時の予定です。

 

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