〈処方〉
前立腺肥大症とは、前立腺の肥大化で膀胱の出口、前立腺部尿道の圧迫とその拡張不全で、排尿困難を中心とした種々の排尿症状が出現する病気です。
前立腺肥大症治療薬の〝αブロッカー〟と過活動膀胱治療薬を処方しました。αブロッカーは、膀胱の出口、前立腺部尿道の緊張を和らげ、排尿時に膀胱の出口が広がりやすくなることで排尿をスムーズにする作用のある、前立腺肥大症の一般的な薬です。
その他、〝PDE5阻害薬〟もよく使われます。一方、過活動膀胱治療薬には膀胱の刺激を抑え、尿意を感じてから排尿までの時間を延ばす効果があります。ただし、過活動膀胱治療薬は使用しすぎると排尿困難を悪化させるリスクがあるため、近年開発された〝β3作動薬〟が頻用されています。
なお、過活動膀胱症状とは、トイレにかけ込む急激な尿意で「切迫尿意」と言われ、間にあわずにもらしてしまうことを「切迫性尿失禁」と言います。水の音や冷えに反応しやすく、帰宅時の急な尿意もあります。
この2つの薬を併用して排尿を改善する際の重要な指標は、「残尿量」です。残尿が多くなければ、薬のバランスが取れて改善していると判断できます。逆に残尿が増える場合は、過活動膀胱治療薬の減量や中止を検討しなければなりません。残尿がなく、排尿がスムーズであれば、処方が成功していると言えます。
なお、この治療は根本的に治すことを目的としているわけではなく、排尿状態を調節するものです。そのため、薬を服用している限り効果は続きます。また、前立腺肥大を『盆栽風』に軽減する薬もあり、必要に応じて処方を追加することがあります。
それは〝5α 還元酵素阻害薬〟という薬で、イメージとして「前立腺の繁茂する分泌細胞の芽と葉を摘んで盆栽風にする」、サイズを2割ほど抑制する薬です。
この薬はPSAを半減し癌化の監視に混乱を招く意味で使用しない施設が多いですが、最低値からの上昇を監視することが早期発見につながるという意見もあります。この薬の使用にかかわらずPSAが上昇すれば、悪性の芽や葉が出てきている(癌の兆候)かもしれないので精密な対応が必要です。この薬は状況に合わせて使用します。
前立腺には癌が発生するリスクもあり、前立腺肥大症に合併する場合があります。そのため、定期的に前立腺癌の腫瘍マーカーであるPSAを測定し、尿流測定で尿の勢いを確認することが推奨されます。
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