北関東に位置する小さな町に位置するこの高校は、不良とかそういう危ない人間がいる学校ではない。ただ、クラスメイトはいい意味でも悪い意味でも高校生だ。一人が起爆剤を放てば、もうしばらくは落ち着くまい。
「野上、絶対嘘だろ」
保健室までの階段を下る途中、高木は僕を見て言った。僕が答えるまでもなく、彼は僕の肩から手を離している。
「まあね」
「なかなかいい仕返しじゃねーか。面白かった」
「その言い方、だいぶ上からだけど、僕のおかげで授業抜け出せてること、わかってる?」
高木は手を叩いて爆笑した。
「よし決めた。お前を保健室まで連れ立っている間に、俺も階段で転んで保健室から戻れなくなった。捻った足で階段を四階まで上がるのは厳しいからな」
保健室は一階にあり、僕らの教室は四階にある。高木はどうだと自信に満ちた表情を向ける。
「あいにくだけど、それはバレると思うよ。それにその足なら、今度の大会は出してもらえなくなるだろうね」
今日は木曜日。高木が出場する柔道部の大会は、今週の土曜日に開催される。
「うわっ。まじかー。仕方ねえ。ここは大人しく戻るとするか」
「ここでいいよ。僕は保健室まで一人で歩けるからさ。送ってくれて、ありがとうね」
嫌味っぽく言ってやった。高木は悔しそうな表情を見せると、「今度なんか奢ってもらうからなー」と告げて、もと来た階段を上り始めた。
保健室に行くと、先生はいなかった。とりあえず後で言うとして、空いているベッドに横になるか。
保健室には三台のベッドが並列されている。真ん中のベッドだけ埋まっており、僕はそのベッドから見て左側のベッドのカーテンを開けた。