④ いよいよ解決だ
こうして子どもたちは暗礁に乗り上げたような雰囲気になってしまいました。しかし、学校で学ぶことの良い点は、全員が同じように思考の行き詰まり状態になるのではなく誰かが何らかの動きをしていることです。ですから再び小さなきっかけを言うことがあるのです。
「両方に同じ数をかけるのに、なんで12ばっかり言うんだろう。他の数じゃいけないのかな」と、ボソッと小声で言った子がいました。
「そうだよね」
「それって、整数でなくてもいいんじゃないのかな。例えば……」
何とか解決したいという思いが強くなり、いろいろな発想が出てきます。こういう思考が自分たちでできるようになるのは、日頃からモノの見方や考え方を指導してきたからではないかと私は密かにニンマリしていました。教師から教えられるのを待つような授業をしてきたのではこういう思考はできないと思うからです。
「分数だァ」
と、Cくんが大きく叫びました。そうして
「分数を両方にかければいいんだよ。それも4/3を」
Cくんは興奮しています。数学者が数式を発見したときのようです。
「いいかい、3/4÷2/3の両方に4/3をかけるよ。すると、3/4×4/3÷2/3×4/3になるよね」
「うん、うん」
聞きながら、子どもたちも身を乗り出してきています。「早く説明しろよ」と言う子もいれば、早くも「分かったあ」と手を叩いている子もいます。
「3/4×4/3÷2/3×4/3=1÷2/3×4/3になります。ここで、1÷はどうせ1になるのだから消してしまえば2/3×4/3になるよ。これって、逆数をかけたことじゃないの」
「なるほど。そうだ、そうだ」
「すごい、すごい。やったじゃないか」
と、児童はとりあえず納得しました。もちろん一度説明を聞いただけで分かる子ばかりではありません。何度も聞き返したり、隣の子とボソボソと言い合ったりしながら納得している子もいます。そうして一人ひとりがこの解決までの道筋を口の中で繰り返しています。そして自分でも説明がつくことがうれしいという表情をしています。そうすると余裕が出たのか、
「4/3じゃなくて、3/2をかけるともっと完全に逆数をかけたことになるね」
「うん、ぼくも今それを考えていた」
などと余裕の表情で語り合っています。