【前回の記事を読む】ストーカー気質の男の相談で探偵事務所を訪れた。「大抵の男はこれで震えあがる」とすすめられたオプションは…
サイコ1――念力殺人
林良祐の家は都心の住宅街にあった。築40年以上は経っているであろう古ぼけた2階建ての木造家屋で、周囲は塀で囲まれているが庭は非常に狭く、そこに植えているというより勝手に生い茂ったような笹が周囲からの目隠しになっていた。
西側に細い路地があり、そちら側に庭の小さなゲートがあり、そこから入って南面中央の玄関から出入りできるようになっていた。
家の北側、東側、南側は全て月極駐車場になっており、千晶の話によれば引きこもりの良祐が人並みに生活できるのもそれによる収入のお陰ということであった。
近くのコインパーキングに千晶のベンツを停めて三人は路地を歩いて彼の家に近づいていたが、その手前で千晶が不意に立ち止まった。
「私、もうこれ以上行けない。あいつに見つかったらまた何をされるか分からない」
彼女はすっかり怯えて震えていた。
「分かった。千晶はここで待ってて。私達が近くまで行ってみる」
麻利衣と賽子は駐車場に停めてある車の所有者のふりをして家の周囲を観察した。1階は周囲が笹で覆われているのと分厚いカーテンが閉められており、中を窺い知ることはできなかった。
2階の東南の部屋が良祐の部屋で千晶はいつもそこで彼と会っていたと言っていた。南側と東側に窓があり、いずれもレースのカーテンが引かれており、一階からは内部を観察することは不可能だったが、昼間でも天井のライトはつけたままになっていた。
「天井のライトがついています。今あの部屋の中に林がいるんじゃないでしょうか」
麻利衣がそう言ったが、賽子は全く耳を貸す様子はなく、目を閉じて集中し始めた。
10秒程すると彼女はおもむろに目を開けた。
「ああ、確かにあの中にその男はいる。正確には『いた』と言った方がよいかもしれないが」
「どこかへ行ったということですか?」
「男は既に死んでいる。あの部屋の中で」
「えっ!」
あまりにも突飛な発言に麻利衣は自分の耳を疑った。
しかし、次の賽子の行動を見て今度は目まで疑わないといけなくなった。彼女はゲートから庭に侵入し、玄関の前まで行ってしまったのである。
「ちょっと、何してるんですか! 住居侵入罪で警察に捕まりますよ!」
麻利衣は慌てて彼女についていった。賽子はドアの鍵に右手をかざし目を閉じて念じているようだった。
「何してるんですか?」
「話しかけるな。今、念動力で鍵を開けているところだ」
しばらくすると彼女は目を開けた。
「開いた」
「えっ!」
驚いた麻利衣がドアノブを回してみたが全く動かなかった。
「いや、全然開いてないじゃないですか」
「おかしい。おそらく何者かが超能力(フォルス)を残留させ妨害しているに違いない」
賽子はどこからか先端が波状になっている工具を取り出した。
「この道具には私の超能力(フォルス)が注入されている。これを使えば妨害している超能力(フォルス)を破ることができるはずだ」
そう言って彼女はしゃがみ込み、工具を鍵穴に差し込み作業を始めた。
「いや、これ、超能力じゃなくて単なるピッキングじゃないですか! もういい加減にしてください。本当に捕まります!」