いつも1人で展覧会に行っていたから、感想も言い合えなかった。毎回それを家でノートに書いておくだけだが、一緒に行ってくれる人がいたら新しい見方も出てくるかも知れない。

「じゃあ今度の土曜日、空けておいてください。詳しい待ち合わせの時間や場所は、連絡しますね」

「はい」

「……これは、デートだと思っていいでしょうか」

笹川が少し恥ずかしそうに、くるみを見てくる。その視線に、くるみの心臓は大きく波打った。

「デート……ですか? それは……」

「僕はそう思ってるんですが、ダメですか……?」

「ダメ……じゃないです」

くるみも、そして笹川もこの手の話には奥手なのだろう。それでも笹川は、自分の意志を示してきた。そのことがくるみにも伝わって、なんだか心がむずがゆくなる。

「デート、楽しみにしておきますね」

くるみも自分の意志を示したほうがいいのかと一瞬迷ったが、それよりも先に出たのは今の素直な気持ちだった。

その日の夜、くるみは理子と電話していた。

「その同期が、隣の部屋でさ……別にうちの壁はそれなりに厚いし、声とかテレビの音とか何も聞こえないからいいんだけどね……なんか落ち着かないよ」

「そっか~……確かに、会社の人と部屋が隣っていうのはちょっと嫌かもね」

「まぁ、嫌とまでは思わないけど、なんか複雑なんだよね……」

くるみは会社の上司が隣に住んでいるのを想像して単純に嫌だと思ったが、理子はそうでもないらしい。部屋が隣で嫌ではないというのは、どういう気持ちなのだろう?とくるみは思う。