次に人相、風体、服装や靴や身につけているもので財布の中身を見定める。あとは、よくわからない超能力のようなもので、その客が、今日、どの程度の買い物をするつもりなのか、幾らくらいの金を落とすつもりなのかを見極める。そして、その少し上の額を狙って口説き始める。
一旦話し始めたらあとは真剣勝負だ。ただひたすら口説き続ける。絶対に諦めない。とことん語る。客が根負けして買うまで口説き倒す。少々えげつないがこれが彼のビジネスモデルだ。ボクもその手口でずいぶんやられた。
彼の餌食になった客はその商品が何であろうと結局買わされることになるのだが、狭い店内にひとつしかないレジにはいつも客の列が出来ていて、一旦、買うと決めるとかなりの時間並ばなければならない。
そんな事情で、彼の店に行くと貴重な休日の概ね半日は潰れることになるのだが、それでも首都圏の端の小さな街の端っこにある小さな熱帯魚店の魚と商品はどれも魅力的でキラキラしていて、結局、休みの日になると懲りもせずに出かけていく。
そんなこんなしているうちにボクはその店の常連となった。スタッフとはそこそこ親しくなり、いつもレジの近くで偉そうに座っている店主とも言葉を交わす程度の顔見知りになった。一度、その彼にちょっと珍しい話を持ち込んだことがある。
当時、ボクは父の会社の子会社として他県に建設した中規模の養鶏場の経営を任されていた。養鶏場はまだ建設半ばで敷地の半分は空き地になっていたが、広い空き地は雑草の始末などの管理が大変なこともあって地元の趣味の乗馬クラブに無料で貸していた。
あるとき、そのクラブのオーナーから「ポニーを入手したが乗馬には向かないので始末に困っている。誰か買ってくれる人はいないか」と相談を受けたのだ。特に心当たりはなかったが、それでも何かの話のついでに熱帯魚店の店主に話をしてみた。