【前回の記事を読む】生まれつき眼球が無い娘。医師は「手術が成功しても脳に障が出るし、失敗すれば命が…」それを聞いて両親が出した答えは…

第3章 重正の船出

大空の鷲(わし)のように

さらに、いつの頃からか重正は「珠輝のために」という理由をつけて、仕事のかたわら電気工学を独学し、電蓄やラジオを組み始めた。

元来、彼はこのような才能に富んでいたのだ。時々電蓄を父がかけてくれることを珠輝はいつしか待ち望むようになっていた。だが彼女はレコードをかけて欲しいと父にねだるような事はなかった。

何故か父には近寄りがたい雰囲気があった。そして父親自身も、娘に話しかけることは多くなかった。まさか無残にも葬られた子を思い珠輝が疎ましかった訳ではあるまいが、その理由もわからなかった。

同僚の炭鉱夫たちがラジオや電蓄の組み方を習いたいと家にやって来るようになると、 重正は自宅の一部屋を仕事部屋に仕立てた。

そこに珠輝が入ることは禁じられていたが、珠輝にとって自分の玩具意外の物には興味がなく、機械類は不気味な物にしか捉えられなかった。珠輝は犬や猫などの動物は好きだった。

珠輝の心の何処かにはいつも温かい物を欲していたのだろう。

珠輝は父や母からよく頭などを打たれていたようで、大人の声を聞く度に両手で頭を覆う癖があった。その原因を両親は理解することはなかった。