【前回の記事を読む】線路の上で放心状態の妻。「危ない!」すぐそこまで列車が来ているのに、わが子を背負ったまま動かず…
第2章 章実馬の陰謀
周りを変えた嘉子のパワー
「重正君、娘さんの目は大変珍しい病気で、下瞼にくっついている物が眼球になるための成分だ。今からこれを眼球になるよう成長させ、それから手術をやれば視力を得ることができる。だがそこにはとんでもない危険が孕(はら)んでいて、成功しても脳に障害が出てくるし、失敗すれば命がない。難しい選択だろうな。」
医師の言葉に二人は唖然とした。
やがて重正が口を切った。
「先輩、いえ先生が手術をしてくださるのでしたらその道を選びたいと思います。一筋の明かりでも娘に見せてやりたいのです。」彼は苦渋の色を浮かべて言った。
「お母さんとしてはいかがですか。」
「主人に従います。娘をお願いします。」
「よく分かりました。僕も全力を尽します。だが重正君は何故こうまで苦労が多いのだろうなあ。」
稔はしんみりした口調だった。その後週一回は派手山医師に、月に一度は中井医師の診察を受けることになった。人々の思いを背に珠輝はすくすくと成長していった。