彼等も父の教えをよく学んだ。そんな実馬を珠輝を連れて嘉子は毎日見舞った。珠輝は祖父の横に寝かせられ嘉子に弁当を食べさせてもらうのだった。その度に祖父は、
「お爺ちゃんはお星様になって珠輝を守ってやるからね」
それが口癖だったという。
さらに彼は重正夫婦に弟たちを大学にやってくれるように懇願した。重正は必ず大学に行かせるから安心するようにと応えた。
ある日珠輝は「爺ちゃんにキャラメルやろう」そう言って嘉子に導かれて祖父の大きな手にキャラメルを載せた。それが珠輝と祖父との最後の瞬間だったのだろう。祖父には申し訳ないが、珠輝は祖父の横で弁当を食べていたことと祖父の大きな手にキャラメルを載せたことしか記憶になく、彼の声は全く記憶にない。
昭和二十四年の六月、丸山実馬は四十九歳の生涯を閉じた。
第3章 重正の船出
大空の鷲(わし)のように
実馬の死で重正は大空に羽ばたく鷲のようにハツラツとしてきた。この二十数年、彼には金銭的なことはもとより、生活のすべてを実馬に牛耳られてきたのだから、少々タガが外れてもやむを得ないだろう。
弟たちもそれぞれ大学に入り、重正にはようやく親子水入らずの暮らしが訪れた。だが彼は決して家庭的な夫ではなかった。嘉子が薪割りをしようが水を汲みにいこうが手伝うことはなかった。
人に誘われて何処かに出かけて何日も平気で家を空けることも度々だった。そんな時、会社に連絡して断りを言うのが嘉子の役割だった。だが彼女はそんな重正を大目に見てきた。
次回更新は12月9日(火)、20時の予定です。
【イチオシ記事】「いい?」と聞かれ、抵抗なく頷いた。優しく服を脱がされてキスを交わす。髪を撫でられ、身体を撫でられ下着姿にされた。そして…
【注目記事】あの人は私を磔にして喜んでいた。私もそれをされて喜んでいた。初めて体を滅茶苦茶にされたときのように、体の奥底がさっきよりも熱くなった。