【前回の記事を読む】「性格的にもあなたに合うと思う」…でも、何かが動かない…

第1章 自分が翳む風

一本の木(3)

青く固かった柿の実も

しっかりした自己顕示に自分の季節を知り

豊潤な色合いに人の舌を誘う

わたしはなにも分からないまま 青い内に枝から離れ

立ち腐れに似て色を染めた

求めたつもりもなく 季節は向こうからやって来た

心地よい風に肌をまかせ 激しい驟雨に体を委ね

生きる喜びの全てとして あなたを眺め 受け入れた

枝先の未だ青い実を一つちぎり あなたは二口頬張り

柿の実は所在なく道ばたに転がる

過ぎた日に 互いの背中に回した指先を固くし 心を交わした河童地蔵の石段に

今はひとり座り 梢を抜ける秋の気配を眺めた

もうすぐ 冬になるなぁ――

季節も きっと わたしも

背負うべき荷物に気づき始めた男の心を 追うつもりはない

「日陰の花も卒業ね 一輪だってきれいよ」

友人から メッセージと共に贈られてきた藍色の一輪挿

窓際に置いた

一本の木は その陰に個性もなく消えた

心を留めていなければ 小さな存在だった

風を踏んで

横断歩道 風の中

立ちつくすには ひとり語りの夢もない

引き返す思いも勇気も 見つからない

新着メールも 今はない

急ぎ足に きっと 恋しい人の待つように足早に風を踏む

なぜ 自分の心に何時も他人の言葉を注ぎたがる

なぜ 求めることに忙しい

なぜ 人混みは悲しいの

昨日の自分は満更でもなかった

足を止めよう 息を吸って

今だってきっと

満更でもないって!