【前回の記事を読む】もうすぐ 冬になるなぁ――季節も きっと わたしも 背負うべき荷物に気づき始めた男の心を 追うつもりはない
第1章 自分が翳む風
It's Okay
彼女の名は ジェイン
細すぎる身体に 透明感のある眼差し
よく動く長い腕は 伸びやかな歌声に空を描き
ジェインの なんでも受け入れそうな穏やかな空気感に
人は直ぐに自分を解いた
繊細で端正なジェインのシルエットに 皆 賛美と好感を覚えた
ジェインは 向けられる自分への印象に 応えた
(わたしは 自分の影の上に立っているの――)
ジェインは体中を ガンに冒されていた
ジェインは薄く形良い唇に 自分のシルエットを奏でた
遠くを見つめているような眼差しに 澄んだ歌声は
優しさを持ち続けて生きる難しさを
道に迷っているのは君だけじゃない!
周りだって迷っている
正解はないの
迷ったっていい It's Okay ♫……と
ジェインは身体を食い潰す魔の手から逃れようと
夏に海のないテネシーから 海岸線に美しい夕陽が沈む
カリフォルニアへ引っ越した
情熱的な夏の夕陽が きっと新しい朝を約束してくれる と
魔の手が掴んでいるその先を欺こうと 名前も変えた
でも魔の手は鋭利な爪を立て 確実に蝕んでいった
自分のことは自分が一番よく分かっている と 叫んだのは
自分への嘘になった
でも 大丈夫
みんなそうやって迷いながら生きている♪
なんてことないよ!♫
迷ったっていい It's alright
自作のメロディーは 多くの人の心に届き 揺さぶり
命を高揚させ 永く夢見ていた次のステージを ジェインは約束された
多くの人々の前で か細くなる命を懸命に輝かせて
スポットライトの光に両手を広げて拳を握り
聴いてくれる皆の 明日を勝ち取る勇気に捧げる歌を――
でも ガンは約束されていた時間をジェインには与えなかった
それでも It's Okay と ジェインは何度も口ずさんだ
ステージに上がる前に ジェインは天に召された……
幸せになろうと決心するのに
今の苦しさの明日の形を思う必要はない と 言いのこし