もう案内する所がなくなって裁判所の傍聴まで引っ張り出した。が、そんな時間は長続きしなかった。
自分にとっては、図書館のトイレにこう落首(らくしゅ)するのが精いっぱいだった。
あゝ 時の流れよ
願わくば いま暫し その歩みを 留めておくれ
あの人が 遠くに行ってしまわないように
三年生になると、司法試験を目標にする学生は別として、みんなそわそわと就職に向けた準備に入る。フォークソングの「『いちご白書』をもう一度」(作詞・作曲、荒井由美)よろしく、昨日までヘルメットをかぶってタオルを巻いてデモに参加していたI君が久しぶりに教室に顔を出した。
詰襟の学生服を着て角帽を脇に抱え、これから面接だという。変わり身の早さに感心というか、複雑な気持ちになった。翻って自分はといえば、結局親のつてで一般の会社に就職することになった。
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