相変わらず教科書にまともに向き合う気持ちになれず、せめて法学部の学生らしくと裁判所の傍聴に出かけた。そこで思いがけない事件に出会った。
当時、世間を騒がせていた「黒い雪裁判」と「黒い霧事件」である。「黒い雪裁判」では武智鉄二監督や映画配給スタッフが被告人となり、作中のシーンが〝芸術か猥褻か〟が争われ、弁護側証人として三島由紀夫が出廷した。
その時初めて「平岡公威(キミトシ)」という彼の本名を知った。また、「黒い霧事件」は日通事件に絡んで吹原弘宜被告が審理の対象となり、こちらには児玉誉士夫が証人喚問に登場した。傍聴席には威圧感あるボディガードが数人控えていた。
一方で私にとっては図書館が校内の息抜きの場所となっていた。ある日いつものように図書カードをめくって借りる本を探していて、ふと目を上げると真向かいにスクリーンでしかお目にかかったことのない吉永小百合さんがいるではないか。
まともに顔を見つめるわけにもいかず、さりとて挨拶する勇気もなく、チラッと見ては心の動揺を抑えていた。
そんなことがあってから何日か経って、当てもなく図書館で時間を過ごしていたら、バンカラが多い当時の早稲田には珍しい、清楚な女子学生がテキストと辞書を携えて前に座った。
小さなきっかけを作って、今度は勇気を出して声をかけてみたら、先方も時間を持て余していたのか話し相手をしてくれた。
その後、図書館を待ち合わせ場所に、私がIKさん(二年上の大学院生)の案内役を務めて、まだ整備される前の甘泉園(かんせんえん)や新江戸川公園(現在の細川庭園)と永青文庫、関口芭蕉庵、丹下健三の設計で話題になった聖カテドラル聖マリア大聖堂と「ルルドの洞窟」。