公立幼稚園園長時代の思い出

小学校長を退職してから1年5ヶ月間、公立幼稚園の園長を経験し、幼児期の教育の質を高めることの重要性と、幼児期の教育を丁寧に行うことの効果を強く実感しています。

公立幼稚園長になる前の3年間、同地域の小学校の校長を務め、公立幼稚園から上がる児童と私立保育園からの児童に、社会的適応のスキルや学びに向かう意欲などに、明らかな成長の差が認められていたからです。園長になってほどなく、その差がどこから生まれていたのかが、よく理解できました。

その公立幼稚園では、月水金と週に3回の研修が行われ、年中・年長の2組に分けた年間指導計画と詳しい月案が主任から示されます。

担任はそれに基づいて金曜日に次週の週案を示し、月曜日にその進め方を1日目の様子で見直し、さらに水曜日に進行状況を確認し、金曜日に振り返り、次週の見通しを立てる──という基本の研修と、それを補うための幼稚園教育要領を中心にした研修体制が確立していたのです。

園児数も、年長15人年中13人の2クラスで最も理想的な条件でした。

子どもを帰してからの午後2時30分からは、月金は約1時間、水は約30分の研修時間で、残りは授業準備や週案作成などの時間に無駄なく当てられました。火木は、担任も副担任も、週案に基づく授業準備に専念していました。

毎朝15分間の朝礼も、両クラスの今日の活動の確認と、教育要領の読み合わせを行い、無駄のない連携と研修体制が確立されていたのです。主任と担任2名の正規職員は、市役所職員と同等の給与で、園長と副担任は、非常勤の嘱託員として勤める体制でした。

そのほかに、預かり保育担当職員も、非常勤として午後2時から出勤し、仕事などで夕方にならないとお迎えに来れない保護者のニーズに対応していました。

このような、驚くほど緻密で計画的な、すべての領域を網羅した学習活動(遊びを通しての学びの活動)に活かす体制が確立されることによって、幼児教育の質は確保できるのです。

しかし、多くの学校法人が手がける私立幼稚園や、社会福祉法人が行う保育園や認定こども園では、保護者のニーズに応じた夕方までの預かり保育に対応し、利益を確保することを優先するため、

公立と同じような研修や準備の時間を幼稚園教諭や保育士に与えることは難しく、ほとんど保育士任せの園も多くなってしまうのが実情のようです。

残念ながら、そんな質の高い幼児教育が成立していた潮来市の公立幼稚園2園は、保護者の協力を得た存続運動も虚しく、行政の効率優先・教育軽視の方針により、2019年前までに廃園させられてしまいました。

政治家の皆さまには、効率優先・教育軽視の地方教育行政が、指導の質や効果を無視した予算削減本位の幼児教育が全国的に広がっていることの問題点にお気づきいただきたいものです。