昼寝をするは虚子
東京と神奈川県境、多摩丘陵の一角にある我が家の周辺にはまだ多くの自然が残っている。坂下のスーパーマーケットまで車で下るうねうねとした長い急坂が私は特に気に入っていた。道の両側は小高く鬱蒼と木々が生い茂る丘陵に続いており、季節には可憐な紫色の山藤が沢山木々に絡んでいた。遠く緑に囲まれて山寺の鐘撞堂が見えるのもなかなかいい風情だった。
ところがである。二年ほど前、いつも通りいつものスーパーまで車を走らせた日、私は唖然とし目を疑った。丘陵の緑が消えていた! 樹木に覆われていた丘が、ただの土の台地に変わっていたのだ。
山藤の絡んでいた木々は全て伐採され、そこに土木の大型作業車が何台も走り回っていた。江戸時代の古絵図にも描かれている森も丘も景観も痛々しい剥き出しの赤土に化していた。その後、この一、二年の間に丘の上には同じオレンジ色の屋根の住宅が百棟以上も立ち並び、いくつものマンションも建った。
最近、狸やハクビシンが我が家の庭にまで出没するようになったのも、この開発で彼らが住処(すみか)をおわれたからだろう。
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