「おとっちゃんこの子に名前を付けてくれんやろうか。」

「おお、名前か、俺は今まで男の子の名前ばかり付けてきたからなあ。まあこの子にふさ わしい名前を考えてみよう。」

実馬は機嫌よく引き受けてくれた。

やがて実馬が

「重正、珠輝(たまき)というのはどうだろう。この子にはいろいろな困難が待ち受けているだろうが何があっても凜として立ち向かって希望を持って生きるようにな。それに丸い心で人には優しく、玉は磨けば磨くほど光るのだから目は見えなくても心は宝石のようにな。俺もこれだけ欲張って子供の名前を付けたのは初めてだ。」

実馬の顔には重正が見たことのない温和なものがあった。その日から赤んぼうは珠輝と呼ばれた。珠輝の出生間もなく長太郎は孫の無事を神仏に託すことにした。その証に四つ足を食することを一切断った。

イチノも彼に従ったが彼女は子宝に恵まれない法子の身を案じてのことの方が心を占めていた。両親の心意気を知った法子も二人に同意した。

彼女は子供欲しさからじっとしていられなかったのだろう。三人は滝に打たれ神仏に手を合わせることを実行した。それを知った嘉子と重正も加わろうとしたところ、

「おまえたちは珠輝のために一日でも長生きしないといかんのだ。精出してうまいもん食べて長生きせい。」

そう言って長太郎は止めさせた。

産後の嘉子はなかなか床上げができなかった。しかし一カ月もするとようやく何とか起き上がることができた。

次回更新は12月7日(日)、20時の予定です。

 

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