【前回の記事を読む】「障害のある子が生まれるかもしれない」——家族にも迷惑がかかると言われ、いとこ同士の結婚を猛反対されたが…
第2章 章実馬の陰謀
繁好の忠告実らず
二人は帰途についた。
一方重正も繁好の一言は引っかかった。
「叔父さんさっきの話は本当やろうかな」
「おらあには分からんが、子供はお神はんからの授かりもんじゃけになあ」
「そのとおり、人の運命なんぞ分かるもんか。なあ兄さん姉さんこの二人を添わせてやっておくれよ」
重正は遂に実馬が差しだした毒水に口を付けてしまった。これが実馬の陰謀と気付くには重正の心はあまりにも愛に飢えきっていたのだ。実馬のとどめの一言で先ほどの不安は吹き飛んでしまった。
「嘉子さんあんたは今の話、どう思うな。もしそんな恐ろしいことがあるかもしれんとばい。それでも俺についてきてくれるな」
「うちは重ちゃんについていくよ。子供のことは何とかなるよ」
彼はこの一言が欲しかったのだ。
「見ろ。嘉子の方が肝が座ってるじゃないか。これで決まりですばい長太郎兄さん。後は祝言の日取りだが、とにかくまず仕事をせんことにゃあ話にならん。今からM炭鉱に行くぞ」
そう言うなり実馬は重正を引き立てるようにして帰っていった。