【前回の記事を読む】いとこ同士で子どもを身ごもった。すると父は「養子をもらう方法もある」と言い、"下ろす"ことを勧められ…

第2章 章実馬の陰謀

本性を表した実馬

あまりの実馬の身勝手さ。重正は実馬を見据えて言った。

「おとっちゃん、今まで俺はおとっちゃんに逆らったことは一度もなかったけど今度ばっかりはおとっちゃんの言う事を聞くわけにはいかんばい。おとっちゃんは俺を一度でも可愛いとは思ったことはなかったやろう。

それと一緒で俺も洪たちより我が子が可愛いとは当たり前やろう。それにこれからも子供を産むななどと嘉子に言えるわけないやろう。何でもかんでも俺を犠牲にしてきたやろうがこの子は絶対産ませるけんな。」

思わぬ重正の反撃に一瞬実馬は返す言葉を失ったが「重正お前戦争に行って変わったねえ。」

実馬は紙のような白い顔になり、目は刺すようにつめたく光っていた。重正は実馬とのやり取りを当然嘉子に話し、

「嘉子お前はどう思う。俺がどう思ったところで子供を産むのはお前なんだからな。産みたくないなら止めてもよいぞ。俺はお前を縛る気はない。」

「うちはあんたについていく。けど初めての子供は下ろしたくないね。あんたが産んで立派に育てるとお父さんに言うたとやき、そうしようやないね。けどあんた、お父さんによう言うてくれたね。うちは嬉しいよ。」

嘉子は重正の中に男の強さを見たと思った。

「もし障害がある子が生まれてもお前と一緒に立派に育てていこう。」

二人は堅く誓い合った。その日から重正と実馬はしばらく口をきくことはなかった。だ が嘉子は弟たちのために中国から持ち帰ったさらしで下着を縫って着せたり重正が他の家より坑内夫に配給される米を弟たちに食べさせていた。