【前回の記事を読む】「おれはおっかちゃんのために気持ちを奮い立たせて懸命に帰ってきたのに。」家族と四年ぶりに再会するはずが…
第1章 丸山家の人々
四年ぶりの再会
「重ちゃんいつ帰ってきたと。」
「一週間前たい。早う来るつもりがおっかちゃんがなあ。」
重正は目を伏せた。
「そうたい叔母さんがねえ。うちもびっくりしたよ。」
そこへ法子夫婦と長太郎が帰ってきた。
「まあ重ちゃんよう帰ったなあ。」
法子も重正に縋って泣いた。
「重正さんお勤めご苦労さんでした。」
繁好は直立不動で挨拶した。長太郎はイチノに買いもの籠を渡しながら、
「今日は鶏を分けてもろうてきたがや。卵も産みたてじゃから早う食わせてやれや。」
三人の女たちは台所に立った。やがて夕餉の薫りが部屋中に漂い始めたころ、学が帰ってきた。
「あっ重正さん。お勤めご苦労さんでした。小さい姉ちゃんよかったなあ。」
学の一言で座がほぐれた。それだけに重正の胸を締め付けた。
「俺のためにこんな御馳走をしてもろうて。」それだけ言うのがやっとだった。
「いやいや重が元気でもんて来たんじゃ、精出して食うて泊まって明日いねや。」
長太郎はどこまでも優しかった。空には満天の星が輝いていた。