第2 章実馬の陰謀
繁好の忠告実らず
次の朝の食卓はにぎやかだった。丸山三姉弟に娘婿、それに重正が加わったのだ。
何よりにぎやかな事を好む長太郎の目尻は下がりっぱなしだった。
「なあ、小さい姉ちゃんが結婚したらおれが一人になるけん寂しゅうなるなあ」
「まあちゃん何言うね、あんたも嫁さんもらって子供ができたらこんなもんじゃないとよ。
毎日悲鳴を上げるくらいにぎやかになるとよ」
「俺にそんな日が来るやろうか」
「またそんなことを言う。まあちゃん早くせんとバスに遅れるよ」
「ああそうや、行ってきます」
学は慌てて家を飛びだした。そんな情景に重正の目が潤んだ。
「俺にはこんな楽しい日が何日あったろう」
そんな重正の横顔をさっきからちらちらと法子は眺めていた。
重正に伝えなければと思いつつ、どうしても言葉が喉に張り付いたようで、話しかける事ができないのだ。夫の繁好は昼からの勤めだったし嘉子は非番だったので後始末が済むと女たちも一息ついていた。
「ごめん!」
いきなりガラリと玄関の引き戸が開き、実馬が顔をだした。
「実馬はん、こない早うどうしたがや」長太郎が口を切った。
「まあ叔父さんあがらんね。」
「ああ」
法子の誘いに実馬は上がり込んだ。
「丁度よかった。兄さんも姉さんも揃うとるから話が早い。実は嘉子を重正の嫁にもらいたいと思って頼みに来たとたい。おそらくこれが泊まるだろうと思うとったから早めに出てきて良かった。」
長太郎もイチノもあっけに取られたが、この機会を逃がしてはならないと法子は意を結して口火を切った。